恐れを分かち
高尾霊園の草刈り掃除をしていると、遠くに鈴の音が聞こえ、
その音が徐々に大きくなってくるのを感じていました。
すると、後方から「おはようございます。」と声がしたので振り向くと、
近くにお住まいの方が犬を連れ、こちらに向かって来られました。
鈴の音はこの方が身につけていたもの。
毎日二度の犬のお散歩。最近、このあたりで熊を見かけたという
情報を受け、気をつけているそうです。
テレビでニュースを見れば、まさかこんなところに熊が出没するのかと、
いままでの常識を覆す事案が、毎日のように取り上げられています。
鈴の音は、風に乗ってかなり遠くから聞こえていました。
遠くにいる獣に対して、早めに人の存在を知らせるための対策。
山々に囲まれたこの生活圏において、まず危険と遭わないようにするには、
音を聞かせるものを携行することは、初歩的心得のようです。
山の恵みを求めるのも人の本能といえます。
長年登山を趣味としていて、休日には様々な山に出掛ける方とお会いしました。
「山に入ることで感じるエネルギーがある。」
と話します。
我々宗教界の修験の僧侶も、山に力を授かると言います。
また、山に食を求める人もいれば、心と身体の癒しを求める方もいるでしょう。
現代の日常における一日の情報量は、平安時代の人の一生分にあたるそうです。
見るもの、聞くもの、触れるものの多さに、思考が整理できず、心は常にざわつき、
人は豊かさの代償として、かなりのストレスが蓄積しているはずです。
疲れていないわけがない。
時には日常から距離を置き、山に入ること、自然の恵みにふれることは、
人が心潤わせ、健やかに生きるためには必要なことと言えます。
先日、人権研修が岐阜県八百津にて行われ、そのあと中津川市の付知峡に行き、
圧巻の不動滝を拝んでまいりました。
山の空気は澄み、水も青く透き通っていて、森林浴と滝からのマイナスイオンを
存分に浴び、随分とリフレッシュできたように感じます。
山で出会う神秘的な美しさや山頂から眺めた景色を知る感動は、日常では得難い。
しかし、たとえ山に入れなくても、それに相当するほどの効果を感じ取れる場所が
身近にあれば嬉しいものです。
お寺はみなさんにとって非日常であり、大自然には到底及びませんが、
そんな時間、空間を心がけて場を設けています。
晦日キャンドル写経。
毎月末日の夜7時から、ろうそくの灯りのみで行う古式の写経です。
今年の春くらいから求めて来られる方が増え、リピート率が非常に高い写経会です。
この場において、「喜びの実感」が効果として得られているのだと思います。
ろうそくの効果とは...。
・リラックス(炎の色・揺れ) →心身の疲れを癒す
・高揚感(幻想的・あたたかな部屋) →潤いと幸福感
・浄化(α波・マイナスイオン)→負の感情を払い、穏やかな睡眠を助ける
特化しているのはマイナスイオンの高さ。森林浴、滝の3倍以上とも言われています。
また、ろうそくの効果は一時的でなく、しばらく保たれるようなので、夜の写経を終え、
ご自宅にお帰りになったあと、よい睡眠導入の一助になっていると思います。
多くの人は、癒しと活力を求めています。
いまの自分というものを見つめた時、その器の広さ、深さは決まっています。
疲弊するのは、その器から漏れるほどの労働やストレス、あるいは不安でしょう。
一方、自分を蘇らせるのは、感動や喜びの力であるはずです。
山を好む人が語っていた、
山に入ることで感じるエネルギーがある、という言葉。
私たちの近未来は、人工的なものから得られるエネルギーや癒しが枯渇し、
恐れを分かち、ありのままの自然美を求める、
そんな時がやってくるのは必然なことと思えます。
大自然の恩恵を拝み、人の世話になるを喜び、過信せずよく勤め、
そして寄り添いあえるバランスが求められる時代と思います。
遥か遠くへむけて鈴の音を響かせるのは、まさにその謙虚たる姿勢です。
合掌








