煩悩?
皐月―。外に出て陽を浴びるのがとても気持ち良い。
境内の木々は青葉が茂り、柔和な桜の季節が過ぎ力強い初夏の足音を想わせ、
つつじはそれぞれに彩り花を咲かせ始めています。
風景の鮮やかな色付きが楽しめる、とても心地よい季節です。
一方では、視線を落とすと草も生え広がり、日に日に背丈を伸ばしています。
草取りが日課になる季節ともなりました。
腰を下ろして周辺の目につく草をとっていきます。
また違った方向を見れば、そこに目につく草があり、その草をとりに腰をあげます。
そうこうしていると、留まることなく、あっちこっちに移動していきます。
いくらか作業した後で、とりあえずこんなものかと腰を上げ片付けようと歩くと、
元々いた場所に、目につく草が残っています。
「さっきこんなの生えてたっけ?」
なんて思いながら腰を下ろすと、
あれあれ? 近くに他の草も残っていました。
そこに居た時には気づかなかった草。
歩く帰り道に、忘れ物のように目に入った草。
視線が変わって初めて目に映る草。
どこか、日常を生きることと似ている。
京都智積院で修行僧として過ごした頃、
境内掃除の時間、生徒監督にこんなことを尋ねた仲間がいた。
『草は煩悩ですか?』