信頼
以前、フリーアナウンサーの中野美奈子さんがテレビ番組で
自分が感謝している恩人としてあげられたのが、
同じくフリーアナウンサーの笠井信輔さん。
笠井さんは現在、闘病生活を送っておられます。
なぜ中野アナは笠井さんに感謝しているのか。
悩みを抱えていた頃に、3階のスタジオから15階のアナウンス室まで、
エレベーターを使うことなく毎日一緒に階段を登り、仕事の相談から、
日常のささいなことまでいろんな話をされたのだそうです。
それが日課となっており、当時とても頼りにしていたと明かしています。
これを聞いてその程度のことかと思ってしまうかもしれませんが、
社会人として経験を重ね、一人前の扱いをされるようになってからは、
実は孤独と戦っている人って大勢いらっしゃると思うんです。
中野アナが感謝しているような心開いて寄り添える存在って、
なかなか見つからないのではないでしょうか。
社会経験を重ね、なお多くを求め、求められていく成長過程には、
取捨選択のなか何かを切り捨てたり、面倒な日常は避けて通ることもあるでしょう。
自ずと合理的な考えのもと、「近道」の価値を教え、教わることが多くなります。
便利になった私達の生活には、常に近道が用意されています。
3階から15階まで上がるのに階段を選択する人って少ないでしょうね。
時間と労力の無駄だからです。
ですが、お二人は毎日ともに階段を登ることを選び、その一歩一歩に費やした時間に、
とても大切な「会話と呼吸」を共有して重ね、二人の間に『信頼』を築いたのです。
中野アナにとって先輩の笠井アナは、「代わりの効かない心の支え」だったのでしょう。
毎日、自分と一緒に遠回りをしてまで時間を費やし支えてくれるような方って、
みなさん、身近に居られますでしょうか。
本山での修行時代にお世話になった先生が仰ってました。
『大切なものを見つけたければ、たくさん無駄もしなさい』
真言宗の布教には「同行二人」という言葉があります。
いつでも弘法大師がともにあるという、信仰と功徳の深さを表す言葉です。
中野アナは、笠井アナと毎日通った階段トークにかけがえのない価値を感じており、
感謝をしています。
まさに同行二人、偽りない信頼関係がここにあります。
そんな恩人とも呼べる絆、とても素敵な話だと思いました。
合掌