密~今年の世相~
今年の世相を表す漢字一文字に「密」が選ばれました。
流行語大賞には「三密」が選ばれ、私達の密に対する意識がいかに高かったかを
知らしめるものであります。
密集、密接、密閉。
コロナウィルスの感染を防ぐために、人が多く集うことや近くに寄り添い合うことを
徹底して避けるべく対策を迫られた一年のなかで、社会、経済には多大な影響が生じ、
いま私達は新たな生活様式によって過ごしております。
人との距離を保ち、いままでは良きことであった行いの多くを疑い見直すこととなり、
お寺も例外ではなく、葬儀、法事など檀務においても抵抗を感じた年でした。
密は「ひそか」と読めば秘め事を表し、「みつ」と読めば多くが寄せ合い集う様として
捉えていましたが、今年はコロナ禍にあり密を避けよと否定的に叫ばれてきたことから、
その反面で『親密』な温かみ、人の「親しみやつながり」の価値について考え直す機会が
生まれたのも事実であります。
さて、密教である真言宗には密の教えというものがあります。
それは、1200年以上昔に弘法大師が伝えられた「身口意の三密」の教えです。
身密とは体で表すこと(手に印を結ぶ)
口密とは言葉で表すこと(真言を唱える)
意密とは心で表すこと(観想する)
この三つの働きを磨き清める修行を積むことで仏となるという教えであります。
これらを平たく表現して、私達の身近な生活にあてはめることができます。
一つ、素直に手を合わせる、優しく手を当てる行為。
一つ、慈しみのある言葉、偽りなき言葉を伝える行為。
一つ、思いやる心、強く穏やかな心を働かす行為。
弘法大師が伝える三密を私達の生活のなかに生かしていく心掛けが、
今後平穏な暮らしを叶えるための「ひとつの道」となります。
しかしながら、この密教の三密こそが解っているようで実に難しい。
コロナ禍に避け続けている三密により感染を抑えながらも、生活上の抑制に不満を重ね、
人は他人を責めるようになり、あちこちで争いごとや誹謗中傷が起こっております。
振り返ってみれば、弘法大師が伝えた三密が欠如する状態に陥っているのです。
目に見えないウィルスへの恐れとその心が、目に見える禍を呼び込んでいる風潮のなか、
あらためて真言密教の三密が伝わることが、人の道徳の面でも、そして良い意味での密を
日常に取り戻すという面においても必要なことだと感じます。
「人は出来ることより出来ないことの方が多い」
今年も自分の出来ない多くのことを他の誰かが行ってくれていたのです。
命をかけて事に尽くされていた人もたくさんおられます。
例年同様に感謝の心で年を締めくくりたいと思います。
皆様、今年一年ありがとうございました。
合掌
真福寺 弘法大師像
「三密加持すれば速疾に顕わる」
弘法大師『即身成仏義』